ウナギの燻製と氷河期の岸辺の静寂:ベリング湖畔の木造小屋でワールドカップを観戦。
ユトランド半島中央部の湖水地方に佇むシルケボー(Silkeborg)は、豊かな水辺の風景が魅力の町です。その代表格とも言えるのがベリング湖(Bølling Sø)。氷河期の雪解け水から生まれたこの氷河湖は、トウヒの木々とヒースの野に囲まれ、カヌーや静かな散策を楽しむ人々に愛されています。駐車場やトレイルヘッドの近くには、湖畔にひっそりと建つシンプルな木造の小屋(バーベキュー用・展望用シェルター)があります。通常は電気は通っていませんが、夏場にはイベント用に小型発電機やバッテリーを持ち込む人もいて、熱狂的なファンのグループならポータブルスクリーンを設置するのも十分可能です。私はグループステージの試合に合わせてここを訪れることにしました。持参したのは、魔法瓶に入れたコーヒーと、ウナギの燻製(Røget ål)の缶詰。これはシルケボーの特産品で、脂がたっぷりのって風味が強く、冷やしてライ麦パンやレモンと合わせて食べるのが一般的です。さらに、その定番のお供である小さなスナップス(デンマーク産のアクアビットで、キンキンに冷やしたキャラウェイの香りがする蒸留酒)のボトルも持っていきました。湖は静まり返り、試合が始まると一人のカヌーイストが静かに通り過ぎていきました。ここは自然保護区であるため、私たちは音量を絞って観戦しました。この静寂こそが、あえて守るべきものだと感じたからです。ゴールが決まっても大騒ぎはせず、スナップスのグラスを掲げて静かに「乾杯(skål)」と囁き合いました。ウナギのなめらかな口当たりと、その濃厚な脂をスナップスがスッキリと洗い流してくれます。暗い湖面とトウヒのシルエットを背景に、スクリーンの光が静かに揺らめいていました。シルケボーへは、コペンハーゲンから電車で約3時間20分。宿泊には湖畔のキャビンや街の中心部のホテル(90〜140ユーロ)がおすすめです。私がこの場所をおすすめするのは、サッカーというスポーツの「祈りや瞑想」のような本質に向き合えるからです。競技そのものよりもはるかに長い歴史を持つ大自然の存在を感じながら、デンマークの豊かな大地と海の味覚を堪能しつつ試合を見守る。それは、ユトランド半島湖水地方の中心で味わえる、静寂と木の香りに包まれた至福のひとときなのです。